【書評】「不変のマーケティング」神田昌典

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今回読んだ「不変のマーケティング」は、ダイレクト・マーケティングを用いたメソッドを紹介する本。

ダイレクト・マーケティングは、もともとアメリカで提唱された手法だ。

そして著者の神田昌典氏は、日本にダイレクト・マーケティングを広めた方。

日本のダイレクト・マーケティングの第一人者による、「ビジネスでお金を稼ぐ方法」の本が「不変のマーケティング」である。

 

ダイレクト・マーケティングの定義

内容に触れる前に、念のため、ダイレクト・マーケティングの定義を述べておく。

最近だと「ステルス・マーケティング」の対義語として使われることも多いが、本来の意味は下記のとおりである。

顧客データベースに基づいて,いろいろな広告媒体を通じて製品・サービスを提供するマーケティングの一手法。 DMに用いられる広告媒体はダイレクト・レスポンス広告と呼ばれ,テレビ,ラジオ,電話などの電波媒体,新聞,雑誌,カタログ,ダイレクト・メールなどの印刷媒体,そしてキャプテンや双方向テレビなどのニューメディアからなっている。

ダイレクト・マーケティングとは ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説- コトバンクより

要は、媒体での情報発信後、商品をほしい人が問い合わせ等の反応を見せたら、その人に直接的にアプローチして、販売する手法。

 

たとえば、テレビの通販などが典型的。

売りたい側が、テレビCMで情報発信

商品を気になった顧客が、CMで告げられた電話番号に連絡

顧客に対して、商品の案内や申し込み手続きをする

電話営業で手当たり次第に営業をかけていくのとは、真逆のスタイルである。

 

その商品を欲しているか否かさえわからない相手に、商品を売ろうとしても、なかなかうまくいかない。

実は欲しかったというならともかく、必要ないという相手を説得するのは、骨が折れる。

説得した結果、必ず買ってもらえる保証もない。

下手をしたら、「営業トークに負けて買ったけど、やっぱりいらなかった」と顧客側がじんわりした不満を持つことだってあり得る。

それなら、初めから欲しいと思っている人に売るほうが、実に合理的だし、簡単だ。

ダイレクト・マーケティングとは、そういう手法である。

 

 

 

「不変のマーケティング」前書きにおけるマーケティングメソッド

「不変のマーケティング」を読んでいて、私が一番「ああ、そういうことか!」と気づきを得たのは、前書きだ。

 

「不変のマーケティング」の目次前には、写真込みで16ページにわたる前書きがある。

はっきり言ってこの前書き、文章のノリがすごく合わなかった。

「本文もこのノリだとちょっとしんどいな…」と思っていた。

でももう少し進んだら、本文は前書きとは違う文体だったので、安心して読み始めたのだ。

 

しかしこの前書き、実はれっきとしたマーケティングの結果だった。

本文中で紹介されているメソッドが使われていた。

なお文体は、紹介されたメソッドには当てはまらない。

だがおそらく、威厳を出すと共に読者を奮い立たせるためのものだ。

「不変のマーケティング」を読破した今、この前書きは、

  • 第1章内の「物語で説得力を出す」
  • 第4章内の「お客を熱中させる物語のパターン」

の要素を含んでいることがわかる。

 

 

 

物語で説得力を出すメソッド

概要

第1章内の「物語で説得力を出す」は、購入のメリット・デメリットに真実味を出すために、物語を使う方法を述べている。

 

たとえばTwitterで、

「コンビニの発注担当が、桁を一つ間違えて注文してしまいました!×日までに売らないと廃棄になっちゃいます。通常○円を△円まで値下げしているので、協力してください!」

とか、

「大人数の予約だった飲み会の、キャンセルが出てしまいました。せっかく料理やお酒を用意したけど、このままだと全部廃棄です。もったいないので、安くするから食べにきませんか?」

みたいなツイートを見たことはないだろうか。

 

twitter.com

 

twitter.com

 

これらはまさに、「物語で説得力」を出して、人の心を動かした典型例だ。

単に「安くします!」では、人の心は大きくは動かない。

もともとそのお店に行くチャンスをうかがっていたならともかく、興味のない人は見向きもしない。

だがそこに「キャンセル・発注ミスで余剰が出たから、その分を安くする」という物語が加われば、人の心は動く。

安く売る意味がわかりやすく、かつ納得できるものであるからだ。

さらには「困ってるなら手を貸そう。ちょうど欲しかったし、しかも安いし」という善意、あるいは大義名分も働く。

「行くならor買うなら今しかない!」と思ってもらえるのである。

結果として、「キャンセル・発注ミス」物語を使ったマーケティングは、数百の在庫完売・料理一掃等の大きな効果をあげている。

 

 

 

「不変のマーケティング」前書きでの使われ方

前書きにおいて「物語で説得力を出す」方法は、「不変のマーケティング」に記載されているメソッドの説得力を出すため、用いられている。

単に「アメリカで大人気のすごいメソッドなんですよ!」と言われても、ピンとは来ない。

大半の人は「ふーん、すごいんだ。他と何が違うのかな。でもまあいいや、他の売れてる本を読もう」で終わるだろう。

 

だが前書きで神田氏は、自身がダイレクト・マーケティングと出会った経緯と、その後の展開を述べている。

時系列順に、それこそ物語のように。

神田氏の述べる物語によって、前書きに、情熱と説得力が生まれているのだ。

 

 

 

お客を熱中させる物語のパターン

概要 

第4章内の「お客を熱中させる物語のパターン」。

こちらはキャラクタービジネスを例にあげ、物語を使ってビジネスをコンテンツ化し、魅力を顧客に読ませる手法を説明している。

流れは以下の通り。

  1. 開発しようと思ったきっかけ(使命感)
  2. 挫折
  3. ちょっとした成功
  4. あきらめようと思うほどの挫折
  5. 予想外の成功

以上5つの流れが、中で述べられている「お客を熱中させる物語のパターン」である。

 

たとえば、大企業社長の経営論の本。

単にメソッドをのせるだけでは足りない。そこで、社長の成功ヒストリーを使ってみる。

社長は若い頃、一念発起して会社を始めた。

最初はうまくいかないが、だんだんまわってくる。

しかし事業で大失敗。大きな借金を抱え、一時は明日の食事にさえ困る有様に。

どうにかせねば、とこれまで誰も目を向けていなかった新事業を始める。

すると、この起死回生の新事業が大当たり。

借金も全額返し、今や日本で名の知らぬものはいない、大企業の社長となったのだ。

これで本が売れる、というメソッドである。

 

大企業の社長という存在は、一般人からすれば雲の上の人だ。

テレビや雑誌では見かけるが、隣にはいない。

芸能人に近いものがある。

 

しかしこのような物語があれば、簡単にいうと親しみが持てる。

人となりを知って、雲の上、住む世界の違う人が、身近に思える。

「こんなすごい人でも、成功続きの順風満帆ではなくて、苦労してきたんだな」と。

そうして物語の主人公こと社長に感情移入しながら、物語を読んでいく。

読み終わる頃には、ほとんどの人は、社長を全くの他人には思えなくなっているだろう。

社長の生き様や人柄、価値観に感銘を受けて、ファンになる人もいるかもしれない。

そうなればしめたもの。

その人は社長の企業の商品を、より好意的に受け止めるようになっているはずである。

 

困難を乗り越えて成功を収める主人公の物語は、昔から手を変え品を変え愛されてきた、王道の物語だ。

流行りの漫画、アニメ、小説、映画。古くは昔話、神話、英雄譚まで。

このメソッドは、商品に興味を持たせて魅力を伝えるために、古典的ながら大変効果的なのである。

 

 

 

「不変のマーケティング」前書きでの使われ方

全く同じではないが、「不変のマーケティング」前書きにも、このパターンは適用されている。

分類するなら、こんな感じだ。

当時勤めていた米国メーカーに、ゼロからの日本市場開拓を命じられる。

  • 【挫折】

(なし)

  • 【ちょっとした成功】

数百のカタログ請求が入り、売上激増。

40フィートのコンテナを毎月何本も輸入。

  • 【あきらめようと思うほどの挫折】

景気悪化、事業精算。

  • 【予想外の成功】

誰もがネットビジネスに暗中模索の中、ダイレクト・マーケティング実践会のメソッドで、低予算で売上を上げ続ける。

神田氏の著作が、開始当初の楽天店舗の研修会で、必読書として推奨される。

このとおり、パターンにだいたいのっとっている。

 

 

 

前書きにおけるマーケティングメソッドまとめ

読み始めたばかりのときは、「なんでこんな前書きを入れたんだろう…」と疑問に思っていた。

正直、前書きのノリの影響で、うさんくさささえ感じた。

だがこの前書きも、ダイレクト・マーケティングの手法の一つだったのである。

ネットで見られる書評の中には、前書きから引き込まれたという方もいた。

私には合わなかっただけで、前書きも、至極まっとう、かつ合理的なメソッドの上でのマーケティングだったのだ。

 

前書き一つとっても、この通り、ダイレクト・マーケティングの手法が使われている。

「不変のマーケティング」のもととなった神田氏のニュースレターは、古くは1998年に書かれたものである。

だから今となっては、やや古い事例やメソッドもなくはない。

だが多少古くなっていても、現代においても十分使える。

なぜなら、ダイレクト・マーケティングは、人の感情の動きを利用したマーケティングだからである。

人の感情の有り様は、今も昔もそう変わらない。

まさしく「不変」のマーケティングだ。

 

 

 

「不変のマーケティング」を読む上で大事なこと

物語を利用したメソッドの他に、「マーケティングの7原則」「購入の言い訳を用意する」「顧客をファンにする」「新しい顧客を紹介してもらう」などのメソッドものっている。

全部は書ききれないが、どれも具体的な事例つきだ。マーケティングの大きな助けとなるだろう。

 

前書きで読むのをやめてしまった方、そもそもまだ読んでない方は、ぜひ読んでみて、そして実践してみてほしい。

「不変のマーケティング」を読む上で、一番大事なのは「実践すること」である。

 

神田氏はこの本のプロローグ(Not前書き。目次の後にある)で、

そもそも、私の連載記事や教材、書籍を読んでいる方。それから私の講演を聞いている人は、合計何万人にもなるわけ。しかしそのほとんどが、「あぁ、そうなの」という段階で終わっている。

「不変のマーケティング」P.45より

やるかどうかで差がつく

「不変のマーケティング」P.45より

だからトップ1%だけが、どんどん1人勝ちをしていくわけ。

「不変のマーケティング」P.45より

と述べている。

あれこれ話を読んで、わざわざ足を運んで聞いても、実践する人は一握り。

そこが成功の分かれ道なのだ。

 

最後に、「不変のマーケティング」前書きの、神田氏の激励を引用しておこう。

実践して、お前の才能を生かし切れ。

そして恩は、社会に返せ。

それが、本書のノウハウを実践するものに課せられた条件だ。

 「不変のマーケティング」P.17より

読んで実践するまでが、「不変のマーケティング」。

一緒に「1人勝ちのトップ1%」を目指そう。